AGA治療の選択肢として学会でも推奨されている方法のひとつが自毛植毛であり、発毛剤や育毛剤が効力を発揮しない場合の最終的な手段としてしばしば用いられていますが、なんといっても植毛は手術が必要になりますから、費用もかかりますし体への負担も相当なものになり、二の足を踏んでいる方も多いのではないでしょうか。
そもそも自毛植毛は、脱毛の原因となるジヒドロテストステロンに影響されにくい後頭部の頭髪を、薄くなった前頭部や頭頂部に移植するものであり、頭髪を頭皮ごと切り取るときにも皮膚を傷つけなければなりませんし、それを植え付けるときにも手術をしなければなりませんから、施術を受ける人の負担は2倍になると言ってよいでしょう。それでなくても毛根は傷つきやすく繊細な部分であり、乱暴に取り扱うと定着率が悪くなりますから、適当に頭皮を切り取れば良いわけではなく、医師だけでなく多くのスタッフが協力して、じっくりと時間をかけ綿密に計算しながら手術を行なう必要があり、熟練した技術がなければ満足の行く結果は得られません。
従来の自毛植毛手術は上に述べたような問題点があるため、施術を受けるクリニックの技量レベルに大きく影響されるという特徴があり、同じ時間と費用をかけても同じような結果が得られないだけでなく、場合によっては醜い傷痕が残るとか再び脱毛するとかいう危険もありましたが、こうしたトラブルを解決するべく開発されたのが自毛植毛機です。自毛植毛機として有名なものにフランスで開発されたオムニグラフトがありますが、これはコンピューター制御によりドナーを採取し、グラフト分けを行ない、植毛手術まで実行する機械で、人の手の介在を最小限に抑えることができるため、作業スピードが飛躍的に向上するだけでなく、ドナー毛根の損傷を防ぎ生命力の高い毛根を移植する効果もあります。コンピューター制御ですから医師やスタッフの技量にはかかわりなく、どこのクリニックでも同様の施術を受けられるため安心できますし、手術時間短縮は患者の体力の負担を軽減することにつながり、さらに通院回数や手術回数を減らせるため、精神的・経済的な負担を軽くすることも期待できるでしょう。
その一方で自毛植毛機の欠点としては、機械なので患者ひとりひとりの頭皮の状態や体質に合わせることができず、画一的な作業しかできないため、特に生え際などは不自然になる可能性が高いことや、グラフト分けの際にもいちいち確認しないで機械的に切り分けていくため、切断されて無駄になってしまう毛根が多くなる点が挙げられます。
自毛植毛機のメリット・デメリットをまとめてみると、まずメリットは何と言っても作業スピードが上がり、手術時間を短縮できることで、患者の負担を減らし手術を受けるハードルが低くなるとともに、医師のレベルに関係なく安定した手術を受けられることでしょう。逆にデメリットは、機械的な作業ですからオーダーメイドの治療を受けることは期待できず、たとえば頭頂部を濃くし生え際を薄くしたいなどという要求には応えられない可能性があり、心から満足の行く仕上がりにするのは難しいという意見もあります。
多くの工業製品に言えることですが、きわめて優れた職人技はコンピューター制御に優っている場合があり、自毛植毛機と手作業の手術の関係も同じかもしれません。非常に技量の高い医師とスタッフが、すべて手作業で自毛植毛を行なえば、かなりの時間と費用はかかりますが自然で美しい仕上がりになり、そうでもないクリニックで施術を受けるなら、自毛植毛機を使用したほうが安上がりなうえに安全で安心ということになるでしょう。”
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