AGA治療の選択肢のうちでも、確かな有効性を持つ方法のひとつは自毛植毛ですが、手術が必要となるため合併症の危険が伴うこと、費用が高額になりがちなこと、苦痛があったり傷跡が残ったりすること等から、治療をためらう人も少なくはなく、こうした欠点をカバーする技術が日々研究され、施術方法も改良を重ねてきた歴史があります。その結果として生み出された最新技術のひとつがロボット植毛(ARTAS)システムで、日本の自動車メーカーとシリコンバレーのベンチャー企業が共同で開発し、人体で臨床試験を行なった結果、人間が実施する手術と比べても遜色ないと判断されて、アメリカ食品医薬品局(FDA)の認可を2011年4月に受けるに至りました。自毛植毛は大ざっぱに分けるとFUT法とFUE法に分類され、前者はドナーとなる毛根をメスを使用して皮膚ごと切り取る方法、後者はメスを使わず毛根をくり抜く方法と概括できますが、ロボット植毛(ARTAS)はFUE法の一種と言うことができ、メリット・デメリットもFUE法と共通している部分が多い一方で、ロボットならではの特徴も何点かあります。
ドナー採取の跡を縫合した傷が残るFUT法に比べて、切らない手術法であるFUE法は、一直線の傷跡が残らないかわりに、ひとつひとつの毛根を直径1mmほどのパンチでくり抜いていくため、どうしても施術には長時間が必要で、やがて医師の集中力も衰えてきますし、ランダムにグラフト採取するせいで毛根を傷つけやすくなり、定着率が下がるというデメリットがありました。ロボット植毛(ARTAS)の最大の特徴は、このパンチ作業を自動化したことで、髪の向きや角度や本数などを、CCDカメラで1秒間に50回も撮影し、ロボットが画像をモニタリングしながら、適切な位置を判断して正確に穴を開けていきます。
また手作業でFUE法を行なう場合と異なり、ロボットには2種類の針が装備されていて、まず鋭いインナーニードルで皮膚をパンチし、次に外側をアウターニードルでくり抜くという2段階の操作を行なうことにより、毛根が傷つく割合を減らし、定着率を上げることが可能になっています。ロボットだとコントロールできなくなったりして危険だというイメージを持つかもしれませんが、少しでも異常があれば自動的に停止する機能が完備していますし、医師がマニュアルで動作を調整できるようになっており、安全性を確保するとともに、微妙な操作が可能なことも特徴です。ただしロボットで行なうのはドナーの採取だけで、植毛手術は従来のFUE法と同じように、毛髪を増やしたい部分にスリットを入れ、株分けしたドナーを人間が手作業で植え付けていくため、生え際などの仕上がりの自然さを求めるなら、やはり熟練した医師の技術が必要になる点に注意が必要です。
ロボット植毛(ARTAS)は手作業のFUE法に比べて、一度に大量のドナーをペースを落とさずに採取でき、施術時間が短い上に、毛根を傷つけにくい方法として注目されていますが、本当に熟練したベテランの医師が施術した場合に比べると、施術時間や毛根の損傷率は決して良い成績を収めていないというデータがあり、機械だからといって信用しすぎるのも考えものです。クリニックの技術力にかかわらず、一定のスピードと定着率を出せる点は評価できますが、ロボットそのものが高額なため、施術費用が高価になりがちな点も問題と言えます。合併症の発生率が低く、安全性が高いというメリットを挙げる人もいますが、まだそれほど症例数が多くないため、他の方法との正確な比較ができるのは、今後の普及を待ってからということになるでしょう。”