自毛植毛はAGA治療の選択肢の中でも、日本皮膚科学会の診療ガイドラインで「勧められる」に分類された有力な治療法ですが、その理由はドナードミナントといって、後頭部や側頭部の毛髪は男性ホルモンの影響を受けにくく、その性質は前頭部や頭頂部に移植されても変わらないため、一生にわたって生え続ける確率が高いことによります。ただし自毛植毛は、例外的に頭髪以外の毛を植毛する場合もありますが、基本的には自分の頭髪をドナーにするため、植毛できる本数に限りがあるというデメリットがあり、この点を克服するためのクローン技術なども研究されてはいるものの、いまだ開発途上というのが現状のようで、必ずしも万能ではない点に注意をする必要があります。さて自毛植毛は手術を伴うため、専門の技術を持った医療施設で施術を受ける必要があり、患者への肉体的・経済的負担も軽いものではありませんが、これを少しでも軽減し、傷跡が残らず自然な仕上がりになるよう、これまでにさまざまな手法が開発され、流行したり廃れたりしてきた経緯があり、その中でも最新技術のひとつがSAFE SYSTEM法植毛です。
現在日本で行なわれている自毛植毛の手術法は、大きく分けるとストリップ法やFUE法が主流となりますが、これはドナーを採取するとき及び植えこむときに使用する手法による分類であり、傷跡の大小、仕上がりの自然さ、手術にかかる費用や苦痛などについて、それぞれにメリット・デメリットがあります。人間の頭髪は1本ずつ生えているわけではなく、数本ずつの毛包単位でまとまっていますが、これをある程度まとめて移植する方法をストリップ法といい、通常は自動植毛機を使って手術することが多く、顕微鏡下で毛包単位に株分けして植えこむ方法は特にFUT法と呼ばれています。ストリップ法は世界で広く行われている植毛方法で、まとめて移植するため手術が比較的早く終わり、負担が少ないというメリットがある反面、毛根にダメージが及びやすく定着率が低めになるという欠点も指摘されていますが、この欠点はFUT法を採用することで改善でき、仕上がりも自然にすることが可能です。
一方FUE法は2002年に開発されたメスを使わない植毛法で、ドナーを採取するとき帯状に皮膚を切り取るのではなく、直径1mmほどの機械でくり抜くように毛根を取って、移植する部分に穴を開け植えていくため、縫合の傷跡は残らないものの、ドナーを取った場所に丸い穴のような傷跡が残り、坊主頭にするとかなり目立ってしまいます。また手術のときはドナー部分の髪を刈り上げる必要があること、ひとつひとつの毛包をくり抜いていくため、時間もかかり疲れるだけでなく費用的な負担も大きいこと、さらに摘出するときドナー毛根の切断率が高いため、定着率が低くなること等のデメリットがあります。
FUEの改良法として、アメリカのJ.Harris医師が開発した方法がSAFE SYSTEM法植毛で、これはSurgically Advanced Follicular Extractionの略ですが、具体的には細い器具と太い器具を使い分け、毛根を傷つける危険を減らすことにより定着率を上げるのが目的で、従来のFUE法では20~50%だった毛根切断率を、5~8%にまで下げたとされています。
SAFE SYSTEM法植毛は仕上がりが美しく定着率の高いことが最大のメリットですが、一般的なFUE法と同様に時間がかかるというデメリットは受け継いでおり、広範囲の植毛には向いていないため、広い範囲の植毛はストリップ法で行ない、生え際などの狭い範囲はSAFE SYSTEM法で行なうなど、組み合わせて用いられる場合もあります。”
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